話題作「蜜蜂と遠雷」の感想レビュー!音楽の魅力と共にご紹介

2017年、直木賞、本屋大賞の同時受賞作「蜜蜂と遠雷」は、幅広い読者層の共感を得たベストセラーですね。

 

この作品は、あるピアノコンクールに青春をかけた若者たちの物語です。

まるで、彼らの音色が実際に聴こえてくるような秀逸な表現で、登場人物たちの心情に肉薄していきます。

 

コンクールという素材自体が、クライマックスに至るまでの構成のはっきりしたひとつの物語です。

いままでピアノやクラシックにさほど興味がなかった読者でも、惹きつけられて一気に読んでしまった、という方も多いでしょう。

ピアノコンクールの配信視聴が趣味のわたしの視点で、この作品の見どころをお伝えいたします。

 

「蜜蜂と遠雷」のモデル

この作品中の「芳ヶ江国際ピアノコンクール」は「浜松国際ピアノコンクール」がモデルになっています。

 

浜松国際ピアノコンクールは、ここで才能を認められると、次の国際一流コンクールでは覇者となるケースが多く、先見の明があると定評のコンクールです。

 

過去には、ラファウ・ブレハッチ、チョ・ソンジンが、浜松で開花し、ショパン国際ピアノコンクールでみごと優勝を勝ち取りました。

 

「蜜蜂と遠雷」の中に出てくる少年少女たちは、いずれも本物の才能を持った逸材。

 

しかし一方で、世間ずれしていない若くて瑞々しい描写は、メジャーデビュー前のアーティストを応援しているような気持ちになり、読者はぐっと愛おしくなるのです。

 

さまざまなコンテスタント像から世界を見る。

主人公といえる登場人物は4人います。

・風間塵

・栄伝亜夜

・マサル・カルロス・レヴィ・アナトール

・高島明石

以上4人ですが、そのほかのコンテスタントの様子からも、各国のピアニスト像が浮き彫りになってきます。

 

“日本人がなかなか持ちえない中国のコンテスタントから受ける揺るぎない自己肯定感”

 

“韓国人が持っている【激しさ】と【いじらしさ】はドラマティックなクラシック音楽と相性がいい”

など、

現在の日本人の演奏が今一つ飛びぬけてこない原因を考えるうえでの、鋭いヒントが描かれています。

 

主人公たちの個性も大変魅力的

この物語は4人の主人公が存在していますが、それぞれ大変魅力的なのです。

 

風間塵

THE・天才キャラです。
いくつものピアノ作品の主人公は天才設定が欠かせませんが、風間塵も例外ではありません。

 

16歳の少年であり自宅にピアノすらなく、今回のコンクールでピアノを買ってもらう事を目的としています。

ピアノ界の大御所ユウジ・フォン=ホフマンがコンクール歴のない風間塵の推薦状出しコンクールに出場させ音楽会は騒然とします。

 

栄伝亜夜

音楽界から離れていたかつての天才少女。
母の死をきっかけにピアノを弾けなくなってしまう過去を持っていましたが、恩師に頼まれコンクールの参加を決めます。

 

当初あまり乗り気でなかった彼女も、周りの天才達に触発され徐々に頭角を表しさらなる進化を遂げていきます。

 

マサル・カルロス・レヴィ・アナトール

日系三世のペルー人の母とフランス人のハーフであり、イケメンの王子様的存在のキャラクター。

 

名門音楽学校出身の最有力の優勝候補であり、産まれながらスターの資質を持っています。

 

才能に恵まれながらも嫌味がなく、音楽に対してとても純粋です。
決して他人を見下しません。
こんなイケメンが現実にいたら絶対恋しちゃいます。

 

高島明石

私のお気に入りキャラクターです。

 

唯一の社会人であり、普段は楽器店で働いているサラリーマンです。
社会人の方ではおそらく1番共感出来るキャラクターではないでしょうか。

 

家族もいる為仕事の合間を縫いながら練習し、コンサートピアニストの夢を諦めない強い思いを抱き、コンクールへと出場します。

 

妻が見守る中での高島明石の一次予選は、私が大好きなシーンであり必見です。

 

成長する姿はまさに青春!

主人公たちはそれぞれ、悩みや葛藤、迷いを抱えています。
コンクールの中でそれらに向き合い、受け止め、立ち向かう姿を見ると熱い想いを抱きます。

 

それぞれの目的の為にコンクールに出場して来ますが、コンクールを通じて様々な人と出会い切磋琢磨して行く姿はまさに青春です!

 

挫折と栄光入り交じるピアノコンクールで、彼らの成長を音楽を乗せて見守ってみてはいかがでしょうか。

 

結局、音楽って何だろう。

書物の魅力とは、自分の中になかった新しい概念を連れてくることでないでしょうか。

 

この作品では、音楽とはいったいなんだろう、という問いに対して、作者がきちんと、その答えを伝えています。

 

情緒的な雰囲気だけで終わるのではないところが、さすが直木賞、と思います。

 

「今の世界は、いろんな音に溢れているけど、音楽は箱の中に閉じ込められている。本当は、昔は世界中が音楽で満ちていたのに」

養蜂家の息子として各地を転々としながら生活をしている天才ピアニスト少年の言葉です。

 

本編を読めば、ひとつひとつの言葉の重みと、世界観が、身の周りに広がっていくことでしょう。

 

「蜜蜂と遠雷」にハマった読者におすすめしたい小説

文章が織りなす音楽の世界に惹き込まれた方に、この作品もお勧め。

 

2016年本屋大賞受賞作「羊と鋼の森」。

こちらもピアノに関係した小説ですね。

演奏家とまた一味違う、ピアノ調律師を目指す青年の物語です。静かでテクニカルな世界が芸術を創っていく、この世界観もとても素敵です。

 

「四月は君の嘘」

こちらは大人気漫画ですね。

コンクール直前に公園で遊んでいたりするだろうか?といった、ファンタジー表現に対しての疑問は多々ありますが、面白い作品です。

 

個人的にはアニメ版も好きです。「ショパンバラード第1番」の世界観は、長年ピアノソロとしてこの曲を弾いている筆者も深く共感しました。

 

「夜のピクニック」

恩田陸さんの質感が好きになった方にはこれ。

まず、夜通しで高校生が歩き続ける行事、という目のつけどころが面白い。

 

「蜜蜂と遠雷」を横から奪って完読した筆者の友達が「恩田陸おもしろい!」と言って、次に借りてきたのがこの作品でした。

ティーンエイジャーからお勧めです。

 

まとめ

話題の「蜜蜂と遠雷」巻頭巻末に、作中コンクールの課題曲や、審査結果が書かれていることも面白いですね。

 

ここに登場する曲を実際に聴いてみる楽しみもあります。

また、浜松国際ピアノコンクールやショパン国際ピアノコンクールの公式YouTubeなどを視聴すると、さらに実際のコンクールの臨場感を得られます。

 

こちらは、作中の本選でマサル・カルロス・レヴィ・アナトールが本選で演奏する「プロコフィエフ協奏曲第3番」を、第8回浜松国際ピアノコンクールでの優勝者が、本選で演奏している様子です。

 

「複雑なメロディラインを、針の穴をくぐるようにして走っていく」という描写を感じることができると思います。

 

みなさんも、文章と音楽、両方からのアプローチを楽しんでみてはいかがでしょうか。

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